順法闘争

誰かの警句で、「『正しき』ことをするのを危険思想と呼ぶ」と言うのがあったような記憶が。
(ぐぐっても、それらしき言葉が出てこないし、腐海に沈んだきり整理のつかない書庫からサルベージする時間も気力もないので、そこはまあ捨て置いてほしい)

電車の席取りに置かれてたカバンに対して、「誰のものでもない荷物が置いてあるのはおかしい」と言う論理で、強引にどけて、老婦人に席を譲る女の子の話。
語り手は気持ち悪さを感じてるんですが、空気読み能力に乏しいボクとしては、この少女に味方したくなっちゃいます。(ぶくまにもあったけど、野中藍ちゃん演ずるところの可符香(P.N)の声が聞こえてきたり…)

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東海道線は東京駅が始発だから、一本か二本見送れば必ず座れるということを先ず念頭に置いておいてほしい。

で、今日、六時ちょい前くらいの電車でのこと。

シートは皆人で埋まっていた。時間が時間だから、並んでいなかった人は先ず座れない。
向かいのシートの右手、ドアの前に、老夫婦が一組立っていた。そこに一人の、なかなか可愛い女の子が乗り込んできた。
で、その女の子、何を思ったのか、シートに置いてある鞄に目を付けた。

それまで自分もまるで気付かなかったのだが、向かいのシート、ドアから数えて二番目にあたる席に、黒の鞄が置いてあった。席ははじから埋まるものだから、多分早いうちから並んでいた人のものだろう。電話をかけるため、あるいはちょっとした買い物のために席を外すけれども、戻ってくるまでの間鞄を置いて確保しておく人というのは少なくなかったから、別段気に止まらなかったのだ。
ところがその女の子、
「この鞄どなたのですか? 」
と鞄の両隣の人に尋ね始めた。
どちらの人も自分のではない、と言っているようだった。
「じゃあどけていいですよね」
女の子は突然、実に明るい調子でそんなことを言い出した。左隣の年配の男性が
え? 何いってんのこの子?
という顔になる。
「電車の座席に誰のものでもない荷物が置いてあるのはおかしいですよね。だからどけていいですよね」
女の子は続ける。男性
「いや、これここの席確保してる人のものだから」
というようなことを言って、見知らぬ鞄の主を庇っている。が、女の子の強弁に最終的に敗北、苦い顔で沈黙した。そして女の子は席から鞄を下ろし
「どうぞ! 座ってください! 」
と明るく、実に明るく老夫婦の奥方に勧めたんである。
奥方は少し遠慮したが
「そこまで言ってくれるなら」
と謝辞と共に座り、なかなか満足そうな顔である。

こうなると事の顛末が気がかりだ。

鞄の主は所用から戻ってきて、並んで確保した席から自分の持ち物が下ろされているのを見て、どう思うだろうか。

ほどなくして鞄の主が戻ってきた。当然のごとく事態に愕然とする。そうして
「この鞄、座席に置いておいたはずなんですが」
と床に下ろされている鞄を指して至極当然の言い分を訴える。
と、
「私が下ろして座ってくださいって勧めたんです」
またもや明るく答える女の子。気の毒そうな目線を送る隣のサラリーマン。
「いや、……これ席に置いてましたよね。人のものを勝手に下ろすのはどうかと思うんですけども」
余りの悪意のなさに却ってうろたえながら自分の正当性を覚束ない様子で確かめようとする鞄の主。
「でも、電車の座席は鞄置くとこじゃないですよね」
更に明るく強弁する女の子。

暫時。

鞄の主は諦めて床に置かれた鞄を取ると出て行った。女の子は至極満足そうだ。そうして安穏と座り続けていた奥方は、若い人もまだまだ捨てたもんじゃないわ、と言いたげな笑みを浮かべながら
「そうよね、座席は鞄を置くところじゃないわよね」
と、呟いたのだった。

カバンを置いて席をキープするって行為は、暗黙の了解と言うか、お約束の世界ですよね。
治安が悪化して生き馬の目を抜かれるような状況だったら、荷物から目を離すようなお馬鹿さんはいないと思います。
で、地下鉄サリン事件の直後のように、何かやばげなテロ事件が起きた直後だったら、荷物を置いて席を外すと言う行為自体、テロと認識される可能性が高いでしょう。通報されて身柄拘束されるか、爆破物処理班が出動してカバンを爆破処理されても文句は言えないよね。きっとたぶん。



ちなみに、ボクはそこまで正義の人ではないので、電車の中で、理不尽な行為を目撃しても、沈黙するしかない小市民なのですね。ははは…(力なく笑う)
電車の床に座り込んで、酒盛りする若者を見かけても、その場で注意することなく、せいぜい、携帯で写真を撮って、こう言う所に貼り付けるくらいの小心者だったりします。(肖像権?何、それ食えるの?)